正直、それほどドラマチックな話ではないのですが、昔の経験を記録しておこうと思った内容。
最近、自宅の時間が長く近隣トラブルで騒音問題がよくあるそうです。そんなニュースを見て思い出した昔話。
それは、かなり昔、一人暮らしをしていた若い頃の話です。ワンルームの賃貸マンションに住んでいました。
そのマンション
もうかなり前のことなんですが、会社からある程度近場で都内の好立地のワンルームマンションを見つけて引っ越していました。
そのマンションは都内の好立地ということで、学生が結構住んでいるらしい。
夜中の来訪者
その日は平日でした。IT業界ってのはどうしても生活のリズムが不規則になりがちです。
その日は疲れており、家に帰ってから早目に(といってもAM12:30とか1:00だったと思う)就寝していました。
布団に入ってウトウトしはじめたとき、
コンコンコン、コンコンコン。
突然ドアを叩く音で目が覚めました。
ん?
寝そうになっていたので、最初は何か理解できていませんでした。
どうやら、誰かが訪ねてきたようです。こんな夜中に?
ここってオートロックのハズなので、外部の人間はそう簡単にドアの前に来られないハズなんだけど…。
あまり頭も回転しておらず、なんとなく玄関のドアを開けていました。
ドアを開けたその先に立っていたのは、メガネを掛けた小柄な若い青年、表情が険しい。
来訪者、曰く
「私、隣の者なんですけどね…。」
険しい表情を崩さず、その青年は自分を"隣の者"と自己紹介してきました。どうやら隣の部屋の方のようです。
その二の句が驚きの台詞でした。
「こんな夜中にうるさいでしょ?」
は?
夜中に騒がしいことについて同意を求めに来たんでしょうか?ちょっと青年の目的が分らず、しばらく無言。
青年はさらに言葉を続けました。
「騒がしいだろう、って言ってるんです。」
どうやらその青年は騒音に悩まされており、騒音の元となる隣人に苦情を言いに来たようでした。
わざわざこんな夜中に…。
でもね、私は寝てたんですよね。騒音なんか出しているわけないじゃないですかね。
でも、このときは、眠りについていたところだったので、会話がポンポンできるほど頭が回転しているわけじゃない状況なんです。若干ブラック入っているような勤務先のサラリーマンってのはね、そりゃあ疲れているもんなんですよ。
なので、
「えーっと…、なに、言ってるのか、よく、分らないんですけど…。」
って絞り出すのが精一杯でした。
青年は騒音に悩まされてストレスが溜まっているようなので、状況は理解できていないようでした。
「いや、だからー、こんな夜中に騒ぎすぎだって言ってるんですよ!」
どうも、騒音に対する苦情を述べていらっしゃる。
しかし、この苦情、残念な結果になっています。
隣人の騒音に耐えかね、怒りにまかせた突撃、というところまでは良かったのですが、どうもこの青年は勘違いしているようでした。
しかし、我に返る
えーっと、ワンルームマンションで夜中に隣人の騒音に耐えかねて、苦情を言いに行った先で出てきた人が、スウェットのようなゆったりした部屋着で光が眩しそうに目を細めながら、時折パチパチしていたら、どうだろうか。
冷静さを失っていた青年には、この辺の洞察が欠けていたようでした。
「あのね、今何時だと…。」
と青年が言い掛けたとき、明らかに真っ暗な部屋の中に目線が移動して、ハッとした表情を見せていました。
目も多少慣れてきたところだったので、このハッとした表情、明らかに何かに気づいた表情、これは見逃しませんでした。
それは青年の早合点だったことを物語っていました。
青年視点で考えると、騒音の元と思っていた隣人の部屋は真っ暗で、表情は明らかに就寝中を叩き起こされたような表情になっています。こんな状況の隣人が青年を突き動かした騒音を発していた隣人とはとても思えなかったことでしょう。
数秒間、あっけに取られた青年は無言になっていました。
誤解でした?
数秒間無言になっていたものの、そこから青年は絞り出しました。
「あ、あのー、今、この部屋の付近で騒音がヒドイんですが、うるさくなかったですか?」
おっと、冒頭の「うるさくないですか?」に絡めて、騒音の元となる部屋の情報収集にスタンスを切り替えてきたようです。
全く関係ない第三者に苦情言いに来てるんですから、通常の神経の持ち主なら恥ずかしくて穴に入りたくなるでしょうな…。同情するよ。
当然なんですが、私の答えは、
「…。寝てたから、うるさかったかどうかなんて分らないですねー。」
実際、この時点では概ね頭の回転は戻りつつあったものの、寝ていたことが無実を証明することを察した私は、まだ"寝起きだからあなたの言っていることよく分りませんよ"って雰囲気で受け答えすることにしました。逆恨みされても怖いし。
完全に自分の誤解だったということに気づいた青年は序盤の強気の姿勢から一気に低姿勢に変わると、
「いや、騒音がひどくて困っているんですよー。こんな時間じゃないですかー?
あ、でも寝てたんですよね?
騒音、関係ないんですよね?
じゃ、大丈夫です~。」
一気に自己完結させると、青年はそそくさと自分の部屋へと帰っていきました。
呆然と後に残されたのは暗闇に佇む寝起きのサラリーマンでした。
特にオチはない
と、こんなように、危うく近隣の騒音問題に巻き込まれそうになったわけですが、このときは偶然にも就寝していたおかげで無実は証明できました。
初対面の隣人の青年は「早合点」してしまい「早とちり」で恥ずかしいことになってしまいました。
でも、これ、たまたま夜遅くまでゲームしていた日に来られてたら、あらぬ疑いを掛けられて、かなり話がこじれていたんじゃないかと思うところもあります。騒音の"うるさい"って主観ですからね。なかなか証明が難しい問題であります。
さらに、こういった近隣の騒音問題に巻き込まれたくない思いから賃貸物件を選択するときに「木造アパートNG=鉄筋コンクリート必須」にしていました。そのあたりも功を奏していたのかも。
騒音トラブルの問題って、難しい。
騒音の主が必ずしも「この部屋」と断定できないのが難しいポイントです。勘違いで騒音の主じゃない別の住人に騒音の苦情を出している、そんな不幸な出来事が(この記事の青年のように)あるかもしれません。
しばらくして、同じフロアの青年の部屋付近から、引っ越し業者が荷物を運び出している姿を見掛けました。
青年かどうかは確かめようがなかったのですが、騒音に耐えかねて引っ越したのかなぁ…、なんて思いながらそのとき引っ越しのための養生された玄関の扉を見つめてしまいました。