ピンポーン
家の呼び鈴が鳴りました。配送予定の荷物でも届いたのかな…ワクワク。
扉を開けると、どんよりした雰囲気を漂わせた中年の女性が立っていました。
髪型は束ねていますがマスクで顔の半分以上を隠し、人相は分からないようになっています。一言で言えばちょっと怪しい雰囲気です。
女性は用件を切り出しました。
「○○党です、いまから税についてのアンケートを回答してください。」
?あなた誰ですか?
「○○党です。」
どうやら政党の政治活動のようです。
ちょっと聞くと強制的にも思える言い回しですが、これお願いベースだと見切って無難にお断りしておくようにします。
「いま我々のほうで各ご家庭でアンケートを回答していただいているんですが…。」
正直言って怖さしかありません。
しかもアンケートと言って手にしている紙、用紙はA4数枚ありますし、設問と思しき冊子が"薄めの写真週刊誌"くらいの厚さです。何問あるんです…。
政治色の強いものとくればなおさら怖いので丁重にお断りするようにします。
私「うちはこういうのすべてお断りしております。」
はっきりと、かつ嫌味なく穏便にお断りしたところ、中年の女性は
「あ…そうですかぁ…。」
と半歩後ろに下がるそぶりを見せました。
私は玄関の扉を閉めようとします。
扉を閉めようとしたそのとき、
グッと、閉まろうとする扉を掴む手が閉じる扉の動きを止めました。
ムムッ!何だ?
「ちょっと、待ってください!」
慌てたような別の声が玄関に入り込んできました。
見れば、どんよりした中年女性に加えて、もう一人初老の女性が扉の陰に居たようです。
初老の女性は扉の陰から顔を半分だけ出して食い下がってきました。
「○○党ですよ。○○党。」
"いや、政党名連呼されても何も変わらない"とこちらの心の声を知ってか知らずか、自身をアピールし初老の女性はこう続けました。
「アンケートです。設問があるんですよ。」
私「いや、ですから、こういうのはおしなべてお断りしております。」
「アンケートが無理なら、設問に回答してください。」
それって、アンケートに回答するってことでしょう。アンケートと同じ話をしていますよ、と心の中で思ったんですが、揚げ足取ったり余計なことを言ったりして会話が展開されるのも面倒です。ひたすら同じセリフでお断りするようにします。
私「そういうのもお断りしておりますので。」
「これに回答してくれればいいんですよ。今。」
…ちょっと勘弁してもらいたいものです。
家にいるから暇だ、というのは誰が決めたんでしょうか?もっというと、「今」時間があるかどうかなんて、それこそ「今」訪問した初対面同士で分かるわけないでしょうに、と思ったものです。
でも、余計なことを言う必要はありません。
私「こういったことはすべてお断りしております。」
何度このセリフをいったことでしょう。でも短気は損気です。結論が一つなので発言も一つです。
初老の女性はまったく変わらない返答にいら立ってきたようで、
「それならばこのアンケートを受け取ってください。」
初老の女性は何が何でもという雰囲気でねじ込んでこようとします。
…。なぜこんなに必死なんでしょう。アンケートなのに。ノルマなんかないでしょうに。
アンケートなんぞ受け取ったが最後、「書きました?」とか「いつ回収にくればいいですか?」とかコミュニケーションを取らざるを得なくなってしまいます。
重ねて言いますが、そういったコミュニケーションも含めてお断りしたい、という返答です。
私「アンケートをお断りしております。よろしいですか?」
態度と発言を変えない様子に、ようやく諦めていただけたようです。
憮然とした初老の女性は無言のまま再び扉の陰に隠れ、こちらからは見えなくなってしまいました。
目の前の扉の隙間からは半歩退いた中年の女性しか視界に入りません。
無言で立ちすくんでいた中年の女性は、一言
「は、はぁ」
と、言葉にならない声を発して会釈ともとれそうな感じで首をすくめました。
私「失礼します。」
といってようやく扉を閉めることができました。もちろんすぐに施錠します。
うーん。招かれざる来訪者は疲れるから勘弁して欲しいです。