いまもむかしも男女の仲というのは難しいものであります。
今日はある社内PCを利用する女性ユーザにサポートを依頼されたときの出来事をご報告します。
顛末の記録
結構昔の話ですが。
「ちょっといい?プリンタから印刷できなくなったんだけど…。」
女性ユーザから通りすがりに声を掛けられてPCの動作確認を依頼されました。
ああ、いいですよ。いつから印刷できてないですか?
「朝は印刷していたけど、そこから印刷してないんだよね~。WORDの印刷ボタンを押しても何も反応しなくって。」
ふーむ、キューが溜まっているのか、PrintSpoolerサービスがちょっとおかしくなっているのか、ってところか。じゃあちょっとPCで様子を確認しましょ…
?
そのとき、さっと対象PCの前に立ち対象PCのマウスを操作し始めたのは、その女性ユーザの同じ部署の男性。
画面を見れば、あれこれウィンドウを開いては最小化を繰り返して様子を確認しているようだ。しかし、なぜに彼は突然このPCを操作し始めたんだ?
PCの操作を掌握してから、その男性は誇らしげにこういいだした。
「プリンタの調子が悪いんでしょ~?まあ任せてよ。」
というや、アレコレとウィンドウを確認しつつ何かを調べ始めた。
咄嗟に私は女性ユーザに視線を送る。女性ユーザは"困ってるけどそれを言い出せない"という表情を苦笑に変えて私に向ける。
ん?
その困った表情はどう解釈すればいいんですの?
男性はそんな女性ユーザの困った表情にはまったく気づくことなくPCを操作してつぶやく。
「どの画面か分からないから、何とも言えないよね。」
…。いや、プリンタから印刷物が出力されない、ってことだから画面はプリンタ画面だと思うぞ。
その心の声むなしく(当然届くはずもない心の声)メモ帳やらワードパッドの画面を開いては最小化を繰り返す男性。
どうしよう。なんか声を掛けづらい。ましてや何か制止したらヤブヘビになりそうな気がする。
現象自体はプリンタのキューが要因だから、プリンタ印刷キュー画面を開いてから、プリンタのオンライン/オフライン確認をしないとどうにもならないんだけどなぁ…。
改まって男性が質問してきた。
「で、何が問題なの?」
…今更かい。
プリンタ1号機から印刷できないんですってよ。
「うーん、画面を見ないと分からないなぁ。どの画面を見ればいいの?」
ようやく。このユーザサポート、どう転がるか現時点では全くの予想不能な展開。
えーっとね。まずはプリンタのキュー一覧を表示しないと分からないね。
「プリントキューの画面てどうやって開くの?」
完全に男性ペースで進んでいくこの会話。どうしようか。
とりあえずプリントキュー画面はタスクバーかコントロールパネルで開くんですよ。コマンドなら「control printers」で開いたウィンドウからプリンタを選択するんです。
「あ、ウィンドウ開いた。障害の見当はついているの?」
改めて説明しておくが、この質問をしている男性。女性ユーザの部署の上司でもなければ、システム部門の関係者でもない。ただ女性ユーザと同じ部署の"同僚"だ。
要するに関係者じゃないんだ。
システム部員の私がこの男性に障害についての見解を説明する義理はないし、まして障害の解消についての合意を得る必要もない。
ない、けど。
ちょっと説明しておいた。
まず確認するのはプリントキュー。次いでPrintSpoolerサービスですね。プリントキューに動作を阻害するエラーキューがあればそれを消せばいいですし、それが存在しないようならPrintSpoolerサービスを再起動してしまえば、おそらく現象は解消に向かうと思いますよ。ただ、エラーになったプリントキューが消せない(消えない)場合があるからその場合にはPrintSpoolerサービスを一旦停止し、プリントキューでエラーになっているキューを消す、ないし現状キューされている印刷キューは全部消去したうえで再度PrintSpoolerサービスを起動すれば、概ね現象は解消するはずですね。でもそれで解消されないのであれば、原因は別のところにあるはずだから、問題を切り分けするために、別のプリンタオブジェクトを作成して印刷を確認し、OSかプリンタかを切り分けることになるでしょう。
見当をつける、という意味ではこれくらいの見当は今のところついていますけどね。
ここまで聞いた男性は、
「じゃあ、お願いしようかな。」
ようやく握っていたマウスを離し、PCの前から体をズラして場所を譲る姿勢を見せた。
私には軽い衝撃が走った。
"お願いしようかな"
リフレインする男性のセリフ。なんだか、よく分からないこの状態。
何がよく分からないって、
・プリンタトラブルが発生したのは女性ユーザのPC
・トラブルの対処を私に依頼したのは女性ユーザ本人
・依頼を受けた私はそのPCの操作をしようとしていた
ここに、くだんの男性の入り込む余地などなかったはずなのである。が、しかしこの男性は突然現れてPCを操作し始めた。
そして、最終的に出てきた発言がこのセリフ、
「じゃあ、お願いしようかな。」
だ。
このセリフのあとに思わず女性ユーザに目を向けた。女性ユーザは変わらず困った表情のまま固まっていたが、
「よろしくお願いね。」
と、一言絞りだしてPCの操作を私に促した。
現象は、簡単なものだった。朝に実行したという印刷キューのうち一つがエラーになっていたらしい。同時実行した印刷キューはエラーキューの前に(プリンタ本体に)流れてしまったので朝の時点では印刷に影響はなかったのだが、最終的にタイムアウトしたエラーキューが滞留してしまったので、これ以降の印刷はできなくなってしまったらしい。
単純にエラーキューは消せばいいし、エラーキューをキャンセルしたのち消えないようであればPrintSpoolerサービスを一旦停止してしまえば、ロック状態は解除されるからエラーキューの消去は完了した。
問題はこの後だ。
「で、解決したの?」
と話しかけてきたのは、依頼主の女性ユーザではなく、くだんの男性だった。
詳しい話をするのも面倒なので、解決しましたよ~、と端的に伝えておいた。もちろん女性ユーザにも簡単に説明して対処完了。
最後に女性ユーザが「ごめんね。」を意味する(と思しき)目配せと会釈をこっそりと送ってきたのは、くだんの男性には内緒です。
解決していないもう一つの問題
PCの問題は解決しこれで対処は完了だが、私には解決していない問題がある。
そう、"なんで男性社員は他人のPCを操作し始めたか"だ。
この問題を解消してくれたのは、男性社員の同じチームで働く後輩。
「あのですね。あそこまで干渉してくるのは私も初めて見たんですけどね。要するに男性社員は女性ユーザに惚れ込んでいるんですよ。」
えー、あー、恋してるってこと?
「そうです。好きだってことです。だから、イイとこ見せようとして割って入ってきたんだと思いますよ。そうとしか考えられないです。ほら、よくあるじゃないですか。」
そういって後輩社員が説明してくれたあるある話は…
女「パソコンの動きが悪いんだよね。」
男「どれどれ、ちょっと見せてみて。」
(カタカタカタ)動作が直る。
男「たぶんこれで大丈夫だよ。」
女「スッゴーイ。ありがとう。」
男「何かあったらいつでも呼んでよ。」
女「ステキ。(ハァト)。」
こんな感じ
いや、こんなことないから。絶対にないから。
「はっはっは(笑)。そんなこと私は知っていますよ。あくまで、"彼の中でのイメージ"、という話です。」
火曜日22:00のドラマで(男女逆とはいえ)似たようなシチュエーションがきっかけで付き合っていた男女という設定のテレビドラマがありますけどね。
あくまでテレビドラマの中だけの話、現実にPCのトラブルを解決したからって恋に落ちる男女なんてレアケース中のレアケースです。それならパソコン管理者なんて年中恋に落ちてるわ。
システム管理者は、PCの障害は解決できても、恋の障害は解消できません。
おあとがよろしいようで。