treedown’s Report

システム管理者に巻き起こる様々な事象を読者の貴方へ報告するブログです。会社でも家庭でも"システム"に携わるすべての方の共感を目指しています。

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逆転通達

今回は10年選手くらいに成長したタイミングでITを知らないシステム部門長とPC仕様について話し合いをしたときの思い出話です。

以前、システム部門の所属長が不在で総務の所属長が兼任部長(兼任部長の役職は本部長)となったことがあります。
その時の話です。

ある日の午後。
システム部門の同僚やら後輩が何人かふてくされ気味に自室に入ってきました。
ん?どうしたの?何かあった?
同僚が服を引っ張りこう言う。
「まずは場所を変えよう、話はそこからだ。」
とりあえず離席するのは確定、と。

促され休憩所へ。
休憩所で話を聞くと、本部長が会議招集をしてシステム部門の一部メンバーを集めました、というミーティングからの帰りらしい。
そのミーティングでこういった通達を出したそうです。
「PCは1台あたり4万円までしか認めない。」
えぇっ、日々社内PCの健康状態をえっちらおっちら気にしてみている私、そのミーティングに呼ばれてませんけど。
「知らないんですよ。PCって何やらなきゃいけないか、その業務を。」
えぇ~そんなとこから~。だって本部長のPCをキッティングして目の前でPC設置したの私なんですよ…。
しかも1台単価4万円て…、その価格帯のプレインストールOSはだいたいHome Editionでしょ?いま150台=150ユーザ規模でActive Directory展開してるのが全く無理な話になるよね?
「一応ね、エディションの話はしたんですよ。業務用ではWindowsOSはHome EditionでなくProfessional Editionを用意しなければActive Directoryが利用できない、ということは説明して理解できたらしいんですが、”じゃあ2万円上乗せして1台あたり6万円だ。それ以上認めない。”と、まあ、こういうこと言うんです。」

さすがに私、この会社内PCのマスタイメージいつも作ってますけどね、"4万円の廉価メーカーPCを再インストールする"といっても、その4万円のPCがドライバやユーティリティを提供してくれなきゃWindowsのクリーンインストールもできないなぁ…。
と、いうのも情報漏えい対策としてモバイルPCではBitLockerを使ってHDD暗号化する、というのが社長からのトップダウンで仕様決定したのがごく最近の出来事、BitLocker使うためにVistaスキップして次のOSはWindows7にすることで社内承認は得ていたよね?SA特典のEnterprise Editionをクリーンインストールしてドライバ適用と(必要に応じて)メーカソフトウェアを後から再インストールせざるを得ない。で、4万円のPCってそういうの出来るの?
黙って聞いてた後輩がとつぜん感情的に会話に入り込んできた。
「知らないですよ。というか知ったこっちゃないです。勝手にやればいいんですよ。勝手に。」
まあまあ、そう怒るなって。
新聞広告とか折込チラシの激安PCの価格設定ベースで考えてるんだよね。まあよくあること。
数年に一回は新聞の1面広告とか折込チラシのPCの価格とか見せられて「なんでわが社のPCはこんなに高いのかね?」って質問されるんですよね。そのたびにActive Directoryを簡単に説明したり「OSの代金と企業向けセキュリティ機能を動作させるための性能が不足するんですよ~。」という説明をしたり、過去の記憶がフラッシュバックしてきた。
大体4万円切るようなPCはWindows Home以外にCPUがCeleronであることが多いし、メモリもケチられていることが多い。無線LANも812.11aを搭載しないことが多い(当時のオフィス環境は外来波で802.11b/gが安定しない)から、今まで設備投資してきたインフラが根底から覆された格好になっている、こりゃ一大事。
感情の盛り上がった後輩はなおも続ける。
「ネットブック買えばいいんですよ、AtomのシングルコアでHDDガリガリ動いて止まらないネットブック配ってやれば。CPU100%状態のPCを使ってればみんなキレますよ。キレさせてやればいいんですよ。」
オイオイ…だからそう怒るなって。
それを聞いた同僚はちょっと悪そうなニヤリ顔でこんな仰天プランをぶち上げ始めた。
「いいね。それ。手始めに本部長と副本部長のPCを最新の4万円…いや6万円のOSだけ入れ替えたPCで買ってきて、"新しいの用意しましたぁ~。使ってみてくださいねぇ~。"とか言って、実際にメインPCを変えてしまうか。オモロイよね。」
いや、そもそもキッティングにどれだけかかるんだ。
なおも同僚は続ける。
「その超ロースペックで何か月持つかやってみる、ってのがいいよね。ファイルサーバに大量に共有されている殺人的なExcelが開けないでしょ、グループウェア開くのにもひたすら待ち、会計ソフトの処理でまた待ち、ギブアップするまでその環境にしてしまおう。」
「グハハハハハ。」突然低い笑い声が響いた。みれば後輩はすっかり機嫌を直して大笑いしている。まあとりあえず機嫌が直ったから良しとするか。
いやいや、まあオモシロそうな話はちょいとあるが、何も解決していない。
さすがにまずいでしょ。結局使えませんでした、とか言ってあとに残る不良債権化した何台かの使えないPC…。
まてよ、最近流行りのネットブック?Atomプロセッサ?それはまずいよ。Celeron以下ってこともありえる。
まとめると、資源配布の速度低下・安定性低下、セキュリティ機能で動作ログ収集、ファイルベースの暗号化ソフトウェアがCPU性能不足、メモリ大食いのアプリがメモリ食いつぶす、TPMがないからソフトウェアエミュレートになってオーバヘッド増大といったなかなかに終わってる運用になりかねない。
さじを投げた同僚が同意を求めてくる。
「さすがに4万円いや6万円ではどうしょうもないですよね。」
ですよね~、どうしょうもない。
2人には再度本部長交渉を約束する羽目になってしまったので、対策を考えないといけなくなったぁ。
もしどうにもならなかったら本気で本部長たちのPCだけ入替よう。

どう説得するか考えるにはまずなぜ単価を言い出したのか、が理解できないといけない。
本部長は実はオラオラ系ではない。おそらく今までの傾向と同じで、"金額しか見えてなく他の数字が理解できないだけ"、ということなんだと思う。で、他の数字ってのがPCのスペックとか作業に掛かっている時間工数。

後日
本部長の時間をもらって約束の時間に約束のミーティングスペースに向かう。秘策、というほどのものでもないが、ネットで調べたPCパーツの価格表を携えて1対1で面談か、といいたくなるようなミーティング。やれやれだぜ。
「今日はお時間をいただけましてありがとうございます。お話ししたいことというのは先日のミーティングのPC1台単価6万円まで、というお話です。」
本部長は顔色一つ変えず飄々としている。
「さっそくですがPCにどれくらい、つまり最低限どれだけの費用を掛ける必要があるのか、その理由をまずはご説明しますね。」
PCパーツ価格表から抜き出した4~5万円程度のPCを作る場合の組み合わせを一覧表にして見せてみた。
「これが4~5万円で1台用意した場合のPC性能です。部品別の価格表を見ると分かるのですが、いずれも一番下の組み合わせです。
で、弊社で必要なPC性能はそれぞれこの辺です。」
と話ながら表にマーカーで丸を付ける私。
本部長は総務/経理の経験者なのでお金の計算は興味が尽きない。説明を受けたすぐあとに、電卓をたたいて金額を計算し始めた。
「高いよね。」
安いのにはわけがあるけど、高いものにも理由があるんです。
本部長は中途入社なんですよね。いくつか昔話をしますね。
「資源配布機能は、過去には1台1台インストール作業をやっていました。今はそれをサーバにセットするだけで150台に対しPC起動時に自動的なインストールが実行されるようになっています。PCの性能が低いとこの自動実行が終わらず単純に150台が始業後しばらく待たないとPCが使えない状態になるんですね。
で、これを避けるために昔の1台1台インストールしてまわる人海戦術だと全国10拠点150台に手作業でPCの目の前に行ってインストール実行するわけです。残業代がいくらあっても足りません。」
ちょっと本部長の興味が出てきたようだ。
「では残業時間いくらになるのかね?」
「業務中はPCユーザはPCを使って業務していますので、原則自動化が使えなければ業務時間外(休日含む)で作業実施です。1台3分~5分程度のインストールでも移動時間とか確認作業とかを含めていくと10分15分とかかるようになります。でそれを150台やると、37.5時間、そもそもインストール自体が3~5分で終わるものばっかりではないですね。全国10拠点となると本社以外の9拠点は現地に行くとなると交通費も掛かりますし、九州の拠点に行くとなると作業を含めると日帰りが難しくなり宿泊費も掛かる、とまあこういうわけで全社的なインストールのたびにこのような作業と経費が掛かってしまうわけですね。」

「なるほど…。人件費ねぇ…。」
そうです、そうです。残業代抑制なんて残業代が従量課金になってから毎回話題に挙がってますよね?
「でこれが早く終わるかどうか、もPCの性能が関わってきます。人海戦術でもPCの性能が高いか低いかは作業時間に大きく影響します。さらにいうと、性能が低いことでそもそも満足に動作しないものもあります。」
「動作しない、というのはどういうことかね?」
徐々に興味が出てきたみたいだ。
「まずは無線LANですね。詳しく説明すると専門用語になってしまうので、携帯に例えますと分かりやすいですかね…
安いのは2Gしか使えなくて、我々が選定しているのは3Gまでが使える機種です。その理由はこのビルが2Gでは安定せず圏外が多いので3Gを使うしか選択肢がない、という感覚でご認識していただければ。」
電話なら分かるんですよね。総務部長だから。
「なるほど。無線LANって、携帯みたいに種類があるのか…。」
そうですそうです。今までインフラ投資して途切れにくい無線LANをちょっとづつ作ってきたのに、いまさらPCを安物にしちゃうと昔のブツブツ途切れる無線LANに逆戻り、ですよ。投資が無駄になってしまいます。

ここまで来ると会話の節々にはそれほど敵意は感じないし、むしろ友好的に思えるのでなんか行けそうな気がしてきた。
「いちばん重要なのは以前の事故で導入した情報漏えい対策の機能が、CPUとメモリを要しますが、これを満足に動かすにはCore2Duoは必要です。」
といってマーカーで丸を付けたところを指さす。
「こういう機能は家のPCには入れませんが会社のPCには全台導入して全社的に保護を掛けているわけです。」
本部長は総務部長でもあるから、Pマークの社内統括責任者なんですよね。情報漏えい事故、起きたら大変ですよね。
「1台単価を下げるとこういった費用が別途掛かってきます。しかも知らないうちに費用が増えてきます。我々はPCを選ぶときに何も最高級品が欲しくて選んでるわけでなく、このあたりが会社から要求される条件に合い、かつ使う人が業務利用するために不満を抱えないレベルに狙いを付けて選定をしているわけです。このあたりはご理解いただきたいところです。」
徐々に本部長が前のめりになってくる。ここはチャンス。
「一旦4万円や5万円程度のPCを何台か導入して実際に試してみる、というのはどうでしょうか?実際に社内仕様にして使ってみるのが一番分かります。ただし実際に技術をやってる我々の意見は"実用に耐えない"レベルですよ。というのが総じて統一した見解です。」
人の考えを180度変えるって難しいから、何台か無駄になるけど購入して本部長用に1台入れてしまう案、を着地点にしようかなぁ…
と、考えたのを知ってか知らずか本部長が決断した。
ここまででじっと聞いていた本部長が口を開く。
「なるほど。お話はよく分かりました。」
すっかり腹に落ちて口調まで丁寧になった本部長。
「試しに買ってみても無駄になるのであれば買う必要はないよね。」
おぉ、さすが投資で儲けた自慢話を飲み会のエピソードとしてストックしてるだけあって計算が早い。と、同時に自分のPCに迫りくる危機を嗅ぎ分けるとは。
「だが一つだけ条件がある。固定資産にしたくないんだよね。
で壊れたら捨ててすぐ買う、消耗品だから減価償却処理もなくて廃棄にも制限なし。これからはこれだと思うんだよね。
99,990円とかでいいから(OS抜きで)10万円を切ること。これを目標にしていちど選び直してみて。」
どうも聞いてるとPCが安価になってきているので固定資産(10万円以上)にならないようにしたいなぁ、、、と思ったところが発端らしいのだが、どこをどう間違えたか、通達を出した時には4万円以上は認めない、という指示に変わっていたらしい。
結局、この混乱の真相は闇の中。

すっかり友好ムードの会議室で本部長の締めのセリフに驚愕する。

「最初っからこう言ってくれれば。分かりやすかったよね。」

いやいやいやいやイヤイヤ、本部長。

担当者の私を会議に招集しなかったの本部長ですからね。