今日は、あるあるの一種「上司からの甘い罠」についてご報告します。
むかーし昔、かなりの昔、ちょっとした体験を元に再構成した半フィクションです。
あるミーティングの一場面
「失敗してもいいから、もっと大胆なスケジュールを組んでくれなきゃ。」
と上司が口を開く。
ここはミーティングの場。上司に提出した無線LAN展開プロジェクトのスケジュールを見た上司からはちょっとした提言がされた。
「無線LANは今まで社内になかったインフラじゃないか。それを待っているユーザがたくさん居るんだ。だからもっとスケジュールを短納期に、作業を詰めて意欲的なスピード感でやってもらいたいんだよな。」
つまり…、他の作業を勘案してスケジュールが余裕持ち過ぎに見える、ということだろうか?頭の中ではこれをどう切り抜けるかを考えるので精一杯だった。
無情にも、これを切り抜けるための妙案が思いつかない。
そうこうしているうちに、上司のペンがスケジュール表の紙面上を動き出していた。
「ここ、白い余白が空いているだろう。ここに翌週の作業を前倒して入れてしまえばもっと早く無線LAN提供をスタートできるじゃないか。」
ホクホク顔で、矢印を引く上司。その矢印は数本引かれていたがどの矢印も前倒しの意味しか含まれていなかった。
ナンテコッタ!
慌ててスケジュール表に存在する余白の意味を説明する。
「いや、そこは…、別のPC関連での作業が立て込みますし、前作業が間に合わなかった時や不具合が出た時に対処するためのバッファとしての期間として…」
その説明は、余白の説明としては不十分だった。
上司は怪訝そうにこちらを見ると、
「無線LAN、役員も注目してて待ってんるんだよ。これ以外のスケジュールじゃダメ。」
と取り付く島もない。
「でも別のPC関連の作業だって納期は決まっていますよ。」
恐る恐る別作業も納期があるということに含みを持たせて、スケジュールの余白を少しでも維持しようとする。
しかし、そんな弱腰ではあまり効果もなかったようだった。
「あのさ。」
一呼吸置いて上司は言葉をつなぐ。
「会社員ってさ、知ってる?失敗しても命は取られないんだよ。
昔の戦争なら失敗したら即、命に関わるけど、さ。会社員って失敗しても命は取られない。だから思い切ってやればいいんだよ。
ま、損害賠償とか減給とか金銭のダメージはあるかもしれないけど。」
…。命のやり取り、っていわれてもね…。
さらに上司は言葉をつづける。
「いま業務として優先すべきなのは、この無線LAN導入プロジェクトが優先だろ。ま、一日無線LAN導入作業をやるわけじゃないだろう?終わってからPC関連の作業をやって、それが終わってから帰宅すればいいじゃないか。」
む、何気に残業を示唆している。それも毎日終電コースで帰れ、というレベルの残業だ。直感的にそう察した。
はっきり言って一日無線LAN導入作業をやっているといっても過言ではない。
正直、この無線LAN導入作業は人手が少ない、予算も当初の予定の半分程度に削られている。なかなかに一人一人に負荷のかかっているプロジェクトなのだが、どうも予算を削った張本人にはそのことが理解できていないらしい…、困ったものだ、とは思うのだが、本人に面と向かってそのようなことを直言できるほど勇気ある会社員ではない私は、黙り込んでしまうしかなかった。
「ま、このスケジュールならいいでしょう。あとはスケジュール通り実行できるかは個人の努力に掛かっている。分かるよね。」
最初から無茶な予算に無茶なスケジュールが、さらに書き換えられて別業務で消費するはずの時間にも突っ込まれ、ドン詰まった状態に身動きが取れなくなってしまった。
こうして上司はミーティングの終了を示唆し、出口に向かって手を差し伸べると、私の退出を促していた。
つづく