「余人をもって代えがたし」という言葉をご存知ですか?
今日は、昔、部長とちょっとした問答のような会話を交わした、そのときの記憶を元に再構成したフィクションです。
その時は突然やってきた
部署を異動して数カ月経ったある日のこと。
部長がやってきてこういった。
「君は"余人をもって代えがたし"という言葉は分かるか?」
ん?突然なんでしょう?
質問されました。
「皆はあの仕事は○○さんでなければと言う。でも本当に○○さんじゃないとダメなんだろうか?他の人でもできるんじゃないか?
そう疑問に思ったことはないか?」
唐突だなぁ、と思いつつも答えます。
「正直、目の前の課題をクリアするのに一生懸命でして…、そういうことを考えて仕事をしている余裕はあまりありませんね…。」
というようなニュアンスのことを返した。
何か事情があったんだろう、何かを想定しながら部長はこう言葉を続けた。
「余人をもって代えがたい人材というのは確かに存在する。しかしだな、会社という組織の中では余人をもって代えがたい状況などというものは存在しないんだよ。」
一息ついて、私に真っ直ぐ視線を投げかけると、言葉をつづけた。
「なぜだと思う?」
うっ、そんなジッと見つめないで下さいよ…部長…。
こう考えると、この時間は問答に思えてきた自分がいた。
逃げだしたいなぁ…。
頭をフル回転させて答える。
「結局、代えがたい人材がいなくても、質が落ちるか時間を掛けて…それでも何とか継続する。ってことですかね…。ここだけの話ですが、部署を異動した時に異動前の部署はそういう風に見えたこともあります。」
前の部署のことを言うのはあまり好きじゃないけど率直に感じたことを述べてみた。
さらに言葉を続けた。
「余人をもって代えがたい、とおっしゃってるのは、おそらく、組織という大枠で見たときです。結局現場レベルでは余人をもって代えがたい人材は存在しています。」
実際に一緒に働いている人間からすれば、その影響を直接受けてしまうものだ。熟練の社員がいなくなれば少なからず周囲の社員はその余波を受けることになる。しかし大枠でみればその余波は大したものには見えないだろう。
部長はなんとなくその答えに満足してくれたようだった。
「…。まあ、いいだろう。」
部長は、そう呟くと椅子に深く腰掛けて体を背もたれにあずけて、ゆったりとした姿勢を取り再び口を開いた。
「Aくんのことだがね。」
――。本題はそれか。
その瞬間頭によぎったことがあった。
明日に続く。