こうしてスキー合宿(日帰りだが)当日を迎えた。
そしてスキー合宿当日
スキー合宿が始まった。
7班は和気あいあいとスキーを担いで歩いてゲレンデを登っていく。
一方の1班や2班はさっそくリフトに移動しゲレンデの上の方に向かって整然と運ばれていくのが見えた。
スキーの授業、といっても学校内の先生が教えるわけには行かないので、スキー場のインストラクターに委託しているようだった。インストラクターが自己紹介する。
インストラクターの自己紹介に呼応して生徒は中学生らしい「よろしくお願いしまーす。」を一同が声を揃えて発声していた。
よくある光景だ。
インストラクターはボーゲンの基本について簡単に一通りの説明を終えると、
「では、さっそく説明したボーゲンで滑ってもらいます。今は遅ければ遅いほどよい、という判断基準で滑ってください。がんばって如何に遅く滑るか、これを工夫して滑るようにしてください。」
こうして、生徒たちに可能な限りエッジを効かせて滑る基本となるプルークボーゲンの実践を促した。
「じゃあ、まずはお手本を見せます。」
そういってボーゲンの姿勢を取ると、かなりゆっくりとしたスピードで5メートル~10メートルほど滑り降りた。
「それじゃぁ、一人づつ滑ってみてくださーい。」
インストラクターが滑り降りた向こうの斜面の下から十数名の生徒たちに声を掛ける。
同じようにインストラクターが滑った跡を辿って一人づつ滑っていくらしい、かなり昔に父の指導でやった記憶がある。
インストラクターがストック(ポール)を振り上げて合図をするたびに一人づつ滑り始めていた。
「基本、大事だよね。」
なんとなくそういう話をしながら順番を待っていた。
当然なのだが、プルークボーゲンのデキが怪しい層が所属する7班では皆一様にボーゲンでまっすぐ5メートル~10メートル滑降すること自体がなかなか困難なようだった。あるものは膝が伸びきっておりうまくスピードの調整ができず、あるものは左右の足の力の掛け具合に偏りが出てしまい真っ直ぐ滑らずに左右どちらかに曲がって行ってしまう。
ああーこれ昔よくやったな~、姿勢が後ろ重心になるんだよね~、とか思いながら他の生徒が滑っている様子を見ていた。
次の生徒はエッジをうまく効かせられないらしく、スピードが出てしまい止まれずに転倒してしまった。
そういや、昔はボーゲンでスピードが調整できなくてよく転んでたな、「エッジを効かせないと止まりたくても、止まれないぞ!」なんてよく言われてたな、と父の言っていたことを思い出していた。
そうしているうちに、私の番になった。
ボーゲンはそもそもできるようになってからかなりの期間経過しているから、とにかく一番のボーゲンができるように心掛けて滑ることに腐心した。
「・・・。君さ。」
滑り終わってから、インストラクターに呼び止められた。
「なんで、ここに居るの?」
なんで?って聞かれてもなぁ。この班に行けと言われてここに来たんだけども。
インストラクターは学校の先生ではないので、端的に、
「先生からこの班に行くように言われました。」
とだけ答えておいた。
インストラクターは、それを聞いて、
「学校の先生が?…あ、そう…。うーん、まあいいか。」
何か思うところがあったらしく、なにか言いたげだったが、次の生徒が待っている。
インストラクターはストックを上げて合図を送ると次の生徒に滑るよう指示を出していた。
こうして練習の時間は終わった
午前の部が終わり、昼食の時間が近づいてきた。
インストラクターは
「これで午前の部は終わりでーす。」
終了の合図とともに
「昼食後に午後の部が始まる時間になったら、ここに集合してくださいね。」」
午後の部の集合場所を伝える。
ハイ!解散、と、思いきや、そうはいかなかった。
「あ、そうそう。君ね。」
インストラクターに呼び止められた私。
「はい。」
返事すると、インストラクターの口から意外な言葉が出てきた。
「この班に居るようなレベルじゃないから、午後からは上の班に行って滑ってください。」
?
言葉の意図が理解できなかったために、まごついている私に理解できるように、インストラクターは言い直した。
「午後はこの班じゃなくて、上の班の集合場所に行ってくださいってことです。」
「え?でも・・・」
「いや、だってもうボーゲン完璧にできるじゃない。この班のレベルじゃないよ。」
「は、はぁ・・・。」
「上の班に行くように私から言っておきますから。集合場所は昼休みに先生に伝えておきますんで、午後の部はその集合場所に行ってください。」
こうして、私のスキーの授業は午後から再び大人の指定した別の班で実施することになったのであった。
結局・・・?
「〇〇君。」
昼食の最中だった。大人の女性の声で振り返る。呼び止めた声の主はクラス担任の先生。
「午後から2班に移動するようにって言われたんだけど。2班って・・・大丈夫なの?」
担任の教師が恐る恐るこう聞いてきた。
「まぁ、もともと2班でしたからね。」
ちょっと複雑な心境だった。
インストラクターに認められた気がした心地良い感覚もあって、
事前に体育教師のA先生から君には無理だと言われていたことがあって、
その相反する両極端な評価の板挟みで、複雑な心境にあった。
でも、別段スキーを楽しむだけであれば毎週のように家でスキー場に行っているのだから、今更学校の授業できた日帰りスキーで思い切り堪能する必要もないのだ。学校の行事では学校という権威に従っておればよい、という思考にこのときなっていた。
「どっちでもいいですよ。」
この思考から、本人としては別にどっちでもいい、という心境だった、もともと大人が決めた7班への移動なんだからそれを撤回するのは大人がやればよい。
「大丈夫ならいいけど…。ケガだけはしないように気を付けてよ。」
今更――。
そう思ってはいたのだが、口には出さないようにしていた。