treedown’s Report

システム管理者に巻き起こる様々な事象を読者の貴方へ報告するブログです。会社でも家庭でも"システム"に携わるすべての方の共感を目指しています。

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バックアップしても同時に壊れたら意味ないんじゃないか?

今日はこの表題についてご報告します。

バックアップが重要だ、という主旨の記事はいくつか既に本ブログでご紹介していますので今さら感はあります。
このブログに限らず、バックアップの重要性を説いた記事は世の中にあふれていますが、ここで疑問が出てくるようです。

「バックアップを用意していても、マスタとバックアップが同時に障害発生で意味なくなるよね?」

これはある意味で正しいのですが、ある意味で考え方にすれ違いが生じています。
この質問内容を今日は記事にしてみようと思いました。

 

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まずバックアップがマスターと同時に故障するのは、同じ構成をマスター環境とバックアップ環境に利用しているから、というのが大きな要因だと考えられます。
例えば、一番分かりやすいのがハードディスクです。
全く同時期に購入した同一のハードディスクを2つ購入して、片方を利用しつつ片方にバックアップを保管する形式でバックアップ体制を用立てた場合、確かに、
「バックアップを用意たのに、マスタ側のHDDとバックアップのHDDが同時に故障発生で意味なくなる」可能性は確かに高いです。
※実際には使用頻度や使用方法の差によって、本当の意味で同時故障は多少確率的にはズレがありますが。

これは
「メディアとして同じ媒体を使っていれば、故障時期が相似するのはやむを得ない。」
という側面です。

昔のバックアップは、HDDで稼働しているマスター環境をテープ(DATやLTO)メディアでバックアップ収集し、マスター側のデータ消失はテープからのデータ復元で対処していました。(なお、いまだ企業内でのLTOは現役メディアです。)
ハードディスクの寿命は概ね3年から5年程度と言われていて、対するテープの寿命は10年程度がめどとなっています。
なお、ここでいう寿命はあくまで保管メディアとしての寿命で年数を述べております。テープをバックアップのために日常で利用するための交換目安はメーカー推奨3年程度の製品が多いです。
少し前の世代ではCDやDVDなどの光学メディアにバックアップデータを記憶させることが定石でした。これもハードディスクの寿命とは異なり10年程度の長期保存が前提でメディアが製造されています。(安い光学メディアは寿命が極端に短いものもありますのでご注意ください。あくまでメディア別で一般的に言われている寿命の話です。)

旧世代では、HDDの容量がテープより少なかったために、自然とバックアップを保管するメディアは寿命が長いメディアにデータを記録して保管するようになっていたので、メディアの寿命を意識する必要はなかった、という一面があります。

昨今ではHDDの容量単価下落とSSDという新たなストレージが主役に躍り出てこの構図が崩れつつあります。意識して保管用メディアを選択する必要があるのかもしれません。
最近話題のSSDもハードディスク同様に保存メディアとしては向きません。この記事ではSSDとハードディスクは同義で扱います。
あくまでもSSDやハードディスクはバックアップにおいては、
「高速にバックアップを取得し、(業務時間外の)夜間時間帯でバックアップを完了させるためのストレージ」
と認識していただいたほうが良いです。
企業のバックアップでは以下を組み合わせてバックアップを取得するのが一般的です。

  1. 「D2D」(ディスクtoディスク、最初のバックアップ取得)
  2. 「D2T」(ディスクtoテープ、保存用、世代用のバックアップ取得)

の2段階を実施しています。まとめて「D2D2T」と表現されることもあります。

D2Dでは同じ記憶メディアを使うバックアップなので、表題にある同時故障の可能性があります。
D2Tではディスクの寿命に比較して寿命までの消耗が緩やかなテープに記録することで、メディア同時故障の可能性が減少することになります。
要するに、寿命が違うメディアを組み合わせてデータを保管しておけば、メディアの障害でデータが消失する危険性はより低いよね、という発想です。

以前、冗長化対策としてRAIDについて何度か書きました。RAIDでは「まったく同じハードディスクを複数本組み合わせて故障からデータを保護する」という保護技術でした。
その他でも、クラスタリングなどでアクティブ-スタンバイやホットスタンバイを構成する場合でも、同一筐体、同一性能のハードウェアが推奨されます。

保管用のバックアップデータ保管の考え方はこれとは逆に、わざわざ違う記憶媒体を用意して同一データを重複して保持する、ことがより価値を高めます。
とはいえ、個人ではバックアップに掛けられる費用にも限りがありますよね?
このためバックアップはハードディスクを使う、としてもそのハードディスクを
「別メーカーや別シリーズ、別世代の製品を選択する。」
ということで、少なくとも同時故障のリスクは多少提言できるはずです。

例:ハードディスクのファームウェアに欠陥があった。○年○月出荷の○○というシリーズはすべて同一のファームウェアを使用している。

この例ですと、マスタもバックアップも同一の欠陥HDDを使っており、一大事です。
マスタとバックアップが別メーカや別世代であれば、この例の問題はどちらかのHDDに影響する問題として対処ができます。(どちらかは生きているよね?ぐらいの温度感ではありますが。)

つまり、冗長化ではあれほど「同一メーカーの同一シリーズ、同一型番のハードウェア」を要求されるのですが、ことバックアップに関していえばむしろ「製品自体がバラけていたほうがよい。」ということになります。

最近ではブルーレイディスクも容量が増え、価格がようやく購入しやすいところまでに降りてきてくれました。もう少し技術が進歩すれば光学メディアをバックアップ記憶媒体として再考できるところまで近づいてきています。

ここまで話したところで、唐突ですがもう一つ、疑問が提示されます。

「じゃあSDカードとかUSBメモリなら大容量だしハードディスクのように円盤(可動部分)がないから、USBメモリに保管すればいいんだよね?」

これは、実はもう一つの危ないバックアップデータ保管方法です。
USBメモリは(製品の出来不出来にもよりますが)一般にSSDよりも読み書き回数が少ない前提の寿命を想定して作られています。故に安い製品も高い製品もあります。SSDですと概ねシリーズコンセプトが合致していればどのメーカーも横並びの価格で、USBメモリのように何故だかわからないが同容量でも価格差が倍以上ある、ということは少ないです。
これはいろいろなコスト削減努力の結果として、安価な製品が世に送り出されている、ありがたい現象ではあるのですが、安価故にどれくらいの水準の製品なのか予想もつかない、という側面も持っています。
さらに、これらのメディアは「フラッシュメモリ」がベースの製品です。
フラッシュメモリは定期的に電気を通さないと放電しきってしまいメモリ上で記憶しているデータがふわっと消えてしまうことがあります。何年も使わなかったUSBメモリやSDカードを使おうとしたら、フォーマットされていません、なんてメッセージが出てきてデータが読みだせなくなった、としたら、この自然放電です。
これを防ぐには、定期的にデータを読み書きし、フラッシュメモリに電気が通るようにしてやる必要があります。フラッシュメモリは内蔵電池を搭載しているわけではないので、文字通りFlashのようにパッとデータは消えてしまうのです。
結局のところ、長期保存に要求されるのは冷暗所に長期間閉じ込めておいてもデータが読み出せること、です。これが技術的に妥当な守備範囲としているメディアは「光学メディア」と「テープメディア」だと言われています。

少々見えにくい価値ですが、もしバックアップ体制をこれから用意しようとされている場合にはこういった点も考慮して製品選定をされると、万が一の有事に備えることになるかもしれません。