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treedown’s Report

システム管理者に巻き起こる様々な事象を読者の貴方へ報告するブログです。会社でも家庭でも"システム"に携わるすべての方の共感を目指しています。

燃尽奮戦記―最終話:逆転異動

体験昔話 smallNovel

同期Aは退職してしまった。
結局、何があったのか語らないまま、有給消化に入り、そのまま会社を去ってしまう。
同期Aは退職の理由を語るつもりはないらしい。
「時を経て、話せるときは来るかもしれない。」
幾ら問い詰めても、
「でも今それを話すつもりはないな。」
この一点張り。結局この真相は闇の中へ。

 残された私ともう一人のメンバー(アーキテクト)二人は、しばらくしてその原因かもしれない内示を受けることになる。
Y部長から我々2人は呼び出され、打ち合わせをすることになった。
席に着くなりおもむろにY部長が口を開く。
「君たちの働き方が変わってしまう可能性があることだから、公式になる前に早めに伝えておくことにする。」
?なんかあまり良くなさそうな言い回しだな、と思ったが黙って耳を傾けることにした。
「我々のオーナー直属のプロジェクトはシステム部門と合流して、新しいシステム部門を構成することになった。」
最初、言っていることが理解できなかった。システム部門と合流?
「まぁ要するにだ。」
Y部長は私を指してこう言い放った。
「君は古巣に戻るんだよ。」
これを聞いたときに、奈落に突き落とされるかのような衝撃が走ると同時に、思わず天を仰ぐ私。
無情にも目の前に広がる光景のはただの天井。天などとスケールの大きいものではなく、スケールの小さい話として"天井を仰いでる"に等しかった。
まさしく、今同席している二人にとっては、合流するかどうかなどという問題はスケールの小さな話でしかない。どこでやるのか、ということについてはあまり重要ではない、そんな節があった。
だが、私にとってそれは全く異なった意味を持つ、自分の問題として「部署を飛び出してきた」形になっているのだ。しかも日々に耐えかねて飛び出してきた人間に取って前の部署に戻る、というのはどんな拷問か?と思える話だった。

いや、待て―――。
自分の心の声が聞こえる。
もしかしたら――、があるじゃないか。もしかしたら、だ。確認するんだ。
私は自分に言い聞かせる。おもむろに口を開き
「確認させていただきたいことが一つあるのですが。」
Y部長に質問していた。Y部長は、もとより疑義を解消するために呼び出したものだ。私に発言を促した。
私は質問を切り出す。
「今のシステム部門の部長はどうなるんでしょうか?その…合流する部署に…残留するのでしょうか?」
Y部長としてはあまり気になる話題ではないらしい素振りだったが、
「いや、残らない。…とは、聞いているんだけどな。実際どこの部署に行くのかは全然聞いていない。」
まっすぐ私の目を見据えて答えた。



時を経て―――。
辞令が下った。
事実は小説よりも奇なり、という言葉があるが、この時頭の中に浮かんだのが、まさにこの言葉だった。

私にはY部長とアーキテクト一名と一緒に計三名でシステム部門への異動という辞令が発行された。
私はシステム部門に復帰した、ということになる。
ここに、私を退職から拾い上げた同期Aが居なかったことが残念に思う。

前の上司であるシステム部門長は前職の経験を買われて、顧客向けコンサル業務をする部署へ異動になるらしい。
心配していた"再び同じ部署になる"懸念は払拭された。

新体制となったシステム部門では、異動組と元メンバーと打合せすることになった。ここからは打ち合わせ後の会話だ。
「よく戻ってきましたね。」
いい意味か悪い意味か、どちらともとれる発言を聞いて、私はどんな顔をして何を言ったらいいものか困った。
こちらの困った様子を知ってか知らずか、元メンバーはこう続けた。
「元上司、ですけどね。最後の日、なんだか演説していましたよ。"私は志半ばで異動になってしまうのは非常に残念だ"みたいなこと言ってました。」
実際、元上司は何かにつけ部下に強く当たり、標的が居なくなれば次の標的を探すような性質があったので、私が居なくなってから元メンバーの誰かがあれこれと強く言われていたんだろう、と想像が出来た。
実際、話を聞いているとメンバーの一人Webの担当者が結構やり込められていたようだ、と思える内容だった。

「しばらくは、業務を大幅に変えることはないそうですけどね…。」
引継ぎをしたメンバーの一人が何かを期待するかのようにこういう。
「環境は多少変わっていますけど、以前のままの環境が残っていますから、すぐにお返しできますよ。いつ引継ぎしましょうか?」
せっかく会社のシステムから解放された気になっている身にとってはあまりうれしくないような、それでも自分が手塩に掛けてきた会社のインフラを再び面倒見ることに何かなつかしさを含めたうれしいような、相反する複雑な気分が心の中に同居していた。

同時に、こういったカムバック的な復帰メンバーにはあまり快く思わない人間も世の中には居るものだが、あまりそういった雰囲気は感じなかったのも救いだった。
部署を離れてから、何度か掛かってくる電話に対して突っ慳貪(つっけんどん)な態度や冷たい応対をしなくて本当に良かった、と思えた。もし部署を離れてから「私は関係ない。」的な冷たい態度を取っていたら、この復帰においてこんなにも(それなりの)歓迎ムードで迎えられることは無かっただろう。(多少の葛藤は元メンバーにあっただろうが。)
自分の会社人生がどのように転んでいくか、自分でコントロールできないのがサラリーマン。もしどう転んだとしても自分に不利に働かないよう、卑下せず見下さず、対等で人と向き合っていく、という重要さをこの体験で骨身に染みるほど思い知らされた。


このとき、退職を決意してから既に2年以上が経過していた。
「で、出戻り、の気分はどうなんですか?」
ある日の昼食時、残ったプロジェクトのアーキテクトメンバーがこう質問してきた。
「なんだか、二年休養しただけ、みたいな格好になってて…。うまくいえないんだけど、因果応報ってのかね。これ。」
実際、退職まで宣言して部署を抜けて、何の縁か同期Aから誘われて踏みとどまって、別部署に異動になったあと、数年を経て元の部署に戻る。
話としては出来過ぎなところもあった。
「ま、いいじゃないですか。変に気を使わない方がいいですよ。」
アーキテクトメンバーは気遣ってか、こういう。
しかし私の本音としては、気遣うな、という方がちょっと無理はあった。
でもその中で救いなのは、
"退職の原因となった上司が別の部署に異動になった"
この一点においては救いになっていた。
なにしろ、退職を申し出たときに、同じ天は抱かないと決意を固めていたのだ。
同期Aから誘われて、システム部門よりも洗練されたインフラを作り上げると決意していた。巡り巡って元のシステム部門に復帰することになってはしまったが、元上司と一緒に再び会社のシステムを作り上げる、という志を持てるほど私は大人になれなかった。
だが、そんな元上司はいない。
退職時に案じた一計は、想像を超える形で成功をおさめていたことに溜飲が下がる思いだったことは否定できない。

私を精神的に阻む者はもういない。
私は一旦精神的に病んでしまったとはいえ、元の部署へ復帰を果たし、完全に元通りとはいかないにしても、見かけ上は元鞘に収まったと言えるところまでに復帰していた。

最後に思い出したのは会社を辞めてしまった同期Aの言葉だ。
彼はシステム部門と合流の話が持ち上がってから、会社を辞める前にこう言っていた。

「キミは、残れよ。残って元の部署に戻る(合流する)べきだ。時間は経ったけど、こうして元の部署に戻る、ってことはさ。
やっぱりその力を認められている、という部分があるんだよ。自信もってやっていいと思う。」

このような話に勝ち負けなどというものは存在しないのだが、私は遠回りしたとはいえ、挫折とその挫折から立ち上がる経験をした、ということは人生において間違いなく貴重な経験をした、ということだけは言えると思う。
そして、サラリーマンは上司を選べない。会社の方針に沿って部門長を組織が決める。
この前提において、日常の積み重ねで上司とうまくやっていくというスキルはサラリーマンに要求される重要なスキルの一つだと骨身に染みた。
この後の職業人生において、この体験は非常に生きたといえる。

こうして私が燃え尽きて退職を申し出てからの事の顛末記は、元の部署に復帰するという形で完結することになる。
私はこの後、約七年の間、このシステム部門でインフラ担当として貢献することができた。

 

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