treedown’s Report

システム管理者に巻き起こる様々な事象を読者の貴方へ報告するブログです。会社でも家庭でも"システム"に携わるすべての方の共感を目指しています。

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燃尽奮戦記―7話:意外な慰留?

同期Aから突然の"オレの部署に来い"という申し出に、意表を突かれ黙り込んでしまった。構わず同期の彼は続ける。
「いま、会社が上場しようとしているの、持株会の動きも活発だから知ってるだろう?」
もちろん知っている。2次募集は退職の意思表明をしていたから申請対象者から外されたが。
同期Aは続ける。
「辞めるんなら、もうちょい続けてキャピタルゲインを持っていけ。」
キャピタルゲインの主体者でもないのに面白いことを言うな、と思いながらも黙って聞き続けることにした。

 「いま、会社がやっと上場しようとしているこのタイミングで、上司に耐えられないという退職理由なんなら辞めるべきじゃない。俺はそう考えてる。俺たちの世代って入社してからずっと損を喰らってきたんだぞ。
残業代、不当解雇未遂、給与改定、賞与カット、挙げればキリがないだろう?
そうやって苦労して頑張ってきた君がさ、ポッと出の他社から引き抜かれてきた管理職に排除されて、キャピタルゲインの分け前を多く分捕ることに俺は腹を立てている、ということだ。」
つまり、同期Aからすると、いままでどうにかこうにかやってきたのは知っていて評価している、がそれが外からヘッドハンティングされてきた外敵に駆逐され報われないまま、幕引きを図っていることについて異があるらしい。
「昔、手作りで一から作ったサーバを"オレの子供たちみたいなもの"って、言ってたじゃんか。あれ、ちょっと俺の心の中では響いてたんだよね。部署は変わるけど別の"子供たち"の面倒見るのもいいじゃないか。だから辞めるの止めて俺の部署に来い。そして、いま俺らがやってるプロジェクト一緒にやろうぜ。」
同期Aは、社内の独立したプロジェクトのメンバー。
人員構成は小規模で、プロジェクトメンバー2人。だが、この会社の会長直轄の特殊なプロジェクトでシステム開発をしている、そのプロジェクトメンバーの1人だ。ちなみにそのプロジェクトリーダーは同期Aの所属部署の部長が兼任している。
交渉事や決定はその部長兼PMが実施して、その他のアーキテクト、開発プログラマといった役割はメンバー2人で賄っているのだが、インフラに長けたメンバーを追加で欲しかったらしい。そのタイミングで、この話を聞きつけこう申し出たそうだ。
「キミさえ良ければ俺が部長に話を通しておく。」
同期Aの感情に任せた話がどんどん盛り上がってくるのが感じ取れたので、落ち着くようなだめようとする。
「ちょっと、落ち着いて。そんな…怒るなよ。」
「いや、俺はキミに怒っているんじゃないんだ。こういう人材使い捨てのような社風というか風潮に怒っているんだ。」
会社が倒産しそうな局面、政情不安定な局面、派閥闘争が激化した局面、会社ではいままでいろいろな局面があった。
いろいろな局面があるから、不利益を被ることだって多くある。先に同期Aが挙げたのがその局面毎に被ってきた不利益だった。
そのすべてを紆余曲折し乗り越えてきたインフラ・システム管理者として社内のITを守って(ある意味で護って)きた、それが君だ、と、そう考えているらしい。
そしてその守護者が精神的に潰されているのではないか?と疑念を持っている中で慰留らしい慰留もなく簡単に退職を容認するこの周囲に対し腹を立てているらしい。
「ある意味、君は功労者の一人であり、これからの会社の成長に十分貢献できるレベルの人材だ。もったいないじゃないか。」
その言は止まらない。
「そもそも、だ。これまでに、いろいろ経験して、これからの未来にも貢献できるレベルの人材にようやく育ったんだよ。会社が育てた、という面もある。そういうせっかく育った人材を簡単に辞めさせすぎなんだ。これは会社の損失だと管理職連中も認識すべき。」
贔屓目を入れてくれているにしても、ありがたい見立てに思えた。この1年半、上司からこんなこと言われたことがない。
「そして、君は何より"会社が嫌いではない"んだろ?辞める理由がないじゃないか。」」
やはり、自分が必要とされる、という場所に自分の居場所を見出す、というのは会社員の習性であり、自分の居場所を求めて居場所がなくなった会社を退職する、というのは自然な行動なんだと実感した自分がそこに居た。
そして、居場所を失った会社員は会社という舞台から降板せざるを得ないのだが、降板の理由に"その社員は優秀か優秀でないか"、は関係ない。もっといえば優秀だと周囲から評価されているかどうかも全く関係ない。どんな会社員であっても平等に、居場所を失った会社員はその舞台から降板せざるを得ない。
そんな退職予備軍に、同期Aは居場所を提供しよう、という申し出をしているのだ。
しかし。彼は、社の枢軸に居るわけではない。いまでも同期の一社員Aだ。そんな権限はない。
そんな思考が脳を駆け巡っていたのを知ってか知らずか、同期Aは決意表明を述べた。
「俺は辞めさせない。俺が決めた。」
なんとも強引かつ乱暴なセリフで本人を置いてきぼりにした、"慰留"ではないか。
だが、気持ちが伝わっている。ストレートで実直さが全面に出た、気持ちの良い"慰留"だった。
そして、この瞬間から"慰留"は"引き抜き工作"に変わる。
「分かった。辞めないし、もし許されるんならソチラの部署に入れて欲しい。」
GOOD!
同期Aのやる気スイッチがONになったらしい。
「じゃあ、俺は部長に直談判だ。異動になるようにお願いする。
で、だ。異動の打診が上の部長同士で話になるはずだ。キミの上司から部署異動の打診が来ている話をされたら即答でOK出してくれ。それで話は成立だ。」
苦笑しながらの反応。
「すごいね。そんなことできるのか?でもなんか裏取引みたいで…いいのかな?」
同期Aは胸を張って自信に満ちた表情でこういった
「いいか悪いか、できるかできないか、なんて考える価値はないよ。俺はやるからね。それだけだ。」
缶コーヒーを飲み干し、同期Aは喫煙所から立ち去り、自席に戻った。

 

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