treedown’s Report

システム管理者に巻き起こる様々な事象を読者の貴方へ報告するブログです。会社でも家庭でも"システム"に携わるすべての方の共感を目指しています。

燃尽奮戦記―1話:疑心芽生える

有給の申請―――。

有給の申請には注意が必要だった。
虫の居所が悪い時に申請を出せば、それは本来受けるはずのない説教に発展してしまう。

そう。有給休暇というのは建前の話はどうあれ、上司が都合のいいときや上司が機嫌のいいとき、上司がいいと思えるとき、にしか取得できない。
建前の話はどうだっていい。これが現実だ。

私は都内の会社で社内システムを管理する情報システム部に勤務する1社員だ。

 現実に有給休暇の申請書を事前に提示し、このようなやり取りを経ることになる。

「来週、休むの?」
上目づかいに何かを探るような目つきで、自席に座った上司はその前に立つ私を見据える。
「はい。」
当然だ。この休暇、必要だから事前申請を申請書の形にして提出しているのだ。
だが、休むかどうか、の話では終わらない。重要なのは休む日、ではないのだ。
ここから業務の進捗について話が波及する。
「この間言っていた、あれ。進捗が遅れているんじゃないの?」
遅れているかどうか、なんて分かるわけない。表計算ソフトのガントチャートマイルストーンすら適当な設定となっている表面上の工程”監視”しかできていない。そんな監視で遅れているかどうかを判別できると思っているほうがどうかしてるッッ。
この心の声を知ってか知らずか、上司はこう続ける。
「休みの申請は結構だが、終わらないんだったら休んでる場合じゃないんじゃないの?」
毎回、こんなやり取りを経て有給を取らなければならない。
もっというと、
「具体的にここで休む分、どう挽回できるのか説明してくれよ!」
と、激しく噛みつかれることもある。この場合、あやふやな答えでは有給は承認されない。
そして何分も立たされたまま上司が飽きるまでクドクド、時に激しく説教される。
こうやって有給申請を取り下げさせる、という戦術なのかもしれない。
これ、まさか、パワハラパワーハラスメント)じゃないよね?
他のメンバーは、”あーあ、やっちゃたよ”と思ってはいるが、無言で黙々とPCのディスプレイに向かって仕事をこなす。
このとき、上司の叱責と同じ音量で自分の心音が耳に届く、胃の上から食道の辺りに意識が集中し、怒りのためか熱く込み上げてくる。
こうして、有給休暇という権利は毎年年度末に付与される分以上に、無駄に捨てる日数が増える、そんな繰り返しになりがちだ。その有給休暇も、自分で「有給休暇はそれほど取ってなくて捨てているが、その分仕事は回っている。」という自分への言い訳が成立しているうちは、それでも何か納得ができるものなのだが、この上司になってからというもの、有給申請に掛かるやり取りが納得できなければ、有給申請を握りつぶされることもあり、かつ自分への説得も成立しない。「有給休暇が取れなかった。」との思いが先行し、いつもなら無駄に捨てる日数など気にしないのだが、この年ばかりはどれくらいの有給が無駄になったのか、対して有給を取ろうとして取れなかった日数を数えて、無駄になった日数とどれくらい差があるか、を眠れない夜なぞに計算したりしてしまったものだ。

有給以外でも落とし穴がある。休日出勤だ。
休日出勤を申請し、メンテナンスを実施することになったが、メンテナンスのタイムテーブル(作業の時刻表)をみて、上司に呼び出されることになった。
「これ、なんで?」
いきなり、これだけ言われても何を不審に思っているのか皆目見当もつかない。当然質問に質問で返すしかない。
「土曜日のメンテナンスの作業予定表です。どうかしましたか?」
質問で返されたのはちょっと不愉快だったらしい。ややイラつき口調になるも上司が口を開いた。
「スタートが遅くて、夜遅いのは何故か聞いているんだよ!」
ここで感情的になってはいけない。淡々と回答する。
「午前中に一部ユーザが出勤し、メンテナンス対象のシステムを利用する、という要望を受けて時間をずらしています。」
ここで上司の導火線に火が付いた。
「そういうのは、何とかしろよ!そういうのを調整するのも仕事じゃないのか?」
当然、そのくらいの調整はやっている。
「調整した結果、午後にまで掛かりそうな業務を午前中に終わらせてもらえるように調整してもらったんですよ。午前中だけはどうしても時間としては必要、と…」
間髪入れず、説明を遮って上司の声の音量が大きくなる。
「じゃあ待たせろよ。メンテナンス終わってから使わせればいいだろう?」
メンバーから助け舟は当然ない。これは一人の戦いだ。ここは譲れない。
「メンテナンスも途中で不測の事態があれば、時間は後ろにずれていくことになります。メンテナンスが完了しなければユーザ側は利用を開始できません。こうなると予備日の日曜まで作業が食い込むことになりますから、それであれば時間が限られている先にユーザの処理を終わらせてしまうのは…」
上司は、結局最後まで、説明を聞くつもりはない。
「俺たちはユーザの御用聞きじゃあないんだよ。そうユーザの都合ばっかりでこっちの作業に影響させられるのはおかしいでしょ?これを調整するのは部員の仕事じゃないか。」
これは調整ではない。巷でもよくある”単なる独裁管理者”だ。
メンテナンスを盾にユーザの行動を制限しているに過ぎない。ユーザの利便性に貢献するのがシステム部門であり、ユーザの要望を可能な限りシステムの都合と擦り合わせるのがシステム管理者の調整だ。
システム部門がシステムの権限を盾にユーザの業務を一方的に制限する企業は世の中に確かに存在する。だが、そんなシステム部門はたいがいユーザからは呆れられている。そんなシステム部門の部員と思われるのは御免だ、ということなのだ。
だが、これは違っていた。話はもっと低俗な話だったのだ。
「土曜日でも9時に出勤して18時に退社してもらえないと、”平日扱いにできない”じゃないか。代休と振休の差、ぐらい分かるだろう。この会社で何年やってるんだよ。」
こう言われたのち、私の体にはまたしても、あの感覚がよみがえる。
心音が耳に大きく届き、胃の上から食道の辺りに意識が集中し、熱く熱が体の奥から込み上げてくる。この感覚だ。これは怒り?なのだろうか。
制度の問題であれば、制度は理解している。他部署の同期社員から同じく絞られた話を聞いている。
代休とは休日出勤し休日出勤として勤務報告、代わりに平日に休む。
振休とは土曜日の休日を平日として勤務報告、代わりに平日を土曜日的休日扱いとして休む。
つまり、”休日出勤分の割り増し分”給与支払い額が変わることになる。当然振休が望ましい。
しかし振休には条件がある。土曜日でも平日扱いとして勤務報告するという関係上、就業規則で定められている平日の出勤9:00-18:00、超過時は通常の残業扱い、と、月~金に出勤するのと同様に時間を守り申告する必要がある。上司としては土曜を休日出勤として容認したくないのだ。
いきなり、そういうことを言われて不興を買うのは心外だ。じゃあ最初からそれを定例ミーティングでも言っておいてくれれば、そのように時間調整もするし、そのようにメンテナンススケジュールも組むように考えも及ぶかもしれない。こんな後出しじゃんけんでこちらの非を責められてもどうにもできない。
もっと言えば、この”振休”という制度。この年度に導入されたばっかりで、いまだ社員全員に浸透しているとはいいがたい。本年度導入された制度に何の説明もなく”何年やってるんだよ。”などと言われる筋合いはない。
私は週末作業に向けた準備をしている最中で、このような話題に付き合わされることに対し、腹ただしさとバカバカしさでお腹一杯だったのだが、
「では、土曜日9時に出勤します。振休は休日明けだと何かあるかもしれないので、2日ほど間をあけて水曜日とします。申請書は不要ですよね?」
要するに休日出勤となって割増賃金を支払う、ということが許せない、と言っているのだ。それなら割増賃金を頂戴しなければそれでいいんだろう。私の申し出は妥当だったようだ。
「いいでしょう。土曜9時、遅刻しないように。」
最初のタイムスケジュールでメンテナンス開始時間がユーザの都合に合わせていることなんかどうでもいいようだった。結局振休で割増賃金にならないようにしたかっただけなんだろう。

ひと月の残業時間が100時間を超えると、死んだときに過労死と認められる。
この情報をある時聞いてからというもの、自分の正しい出勤時間と本当の退社時刻をメモに記録するようになっていた。
何かを意識していたのかもしれない。もしかして、いっそのこと…。

だが自身の運命を狂わせたきっかけは、労働時間の問題ではないことに、まだ気づいていなかった。

 

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